コミットメント~新規参入で勝つ秘訣

先ほど見たように、サッポロは参入したとしても、サントリーの低価格戦略に巻き込まれて、撤退を迫られるのが見えている。では、サントリーがそもそもの予想を間違えなかったら、サッポロは撤退して、参入は失敗に終わっていたのだろうか?

実は、サッポロは取っておきの戦略を用意していた。

もう一度、サッポロが参入する前の状況を眺めてみよう。

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新規参入するに当たって、サッポロにとって一番好ましい結果は、赤丸であり、これは「サントリーが価格を下げないで、サッポロのみ安い商品を販売する。」という、うまい具合にシェアと分け合っている状態だ。

これ以外の結果は、サッポロにとってはマイナスでしかない。ではどのようにすればその結果が達成できるのだろう。

このためには、サントリーに「価格維持」をさせなければならない。しかし、サントリーが合理的に意思決定すると、先程見たとおり下記の通り「低価格」となってしまう。

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では、ここでサッポロが「サントリーが価格を下げてこようが、俺達は絶対に撤退しない!死ぬまで戦い続ける!!」と意思表示をしたらどうだろう。損をしようが徹底的に戦いを継続するという決意表明だ。

このとき、サッポロの撤退という選択肢は存在しないため、次のような状態となる。

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この状況では、サントリーが価格を維持する場合の利得は300、低価格とする場合の利得は100となる。仮に価格を下げたら、泥沼の戦いに巻き込まれてしまうわけだ。こうなると、サントリーは価格を維持をした方がマシであり、つまり、サッポロが望んでいた価格維持をサントリーは選択してくれるわけだ。

このように、自分の行動を限定するような意思表示を、ゲーム理論ではコミットメントという。コミットメントをうまく使えば、相手の行動をうまく誘導することができるわけだ。

ただし、コミットメントを使う場合には、その信憑性が重要になる。仮にサッポロがそのような発言をしたとしても、実際の利得に影響はないので、「そうは言っても撤退した方が得でしょ?口だけなんじゃないの?」ということはサントリーはわかっているからだ。泥沼の赤字事業を経営陣が続けるようでは、株主も黙っていない。

つまり、言葉でただ言うだけでは、説得力や現実味がないのだ。

では、コミットメントの信憑性はどのようにしたら得られるのだろう?