合理的に合理性を捨てる~チェーンストアパラドクス2

チェーン店はチェーンというだけあり、色々な地域に多数の店舗を出店している。そのすべての地域で、地元店が参入するかどうかの問題が起こるわけだ。

仮に、すべての地域で先ほどと同じ状況に局面しているとしても、それぞれの地域では、共存した方が合理的なのは先ほど見たとおりだ。

しかし、チェーン店としては、すべての地域で共存して、すべての地域で利得を1,000から700まで落とされるのは、たまったものではないだろう。

そこでチェーン店としては、なんとか参入を防ぎたい。先ほど見たとおり大企業が参入を防ぐには色々な対策があった。ここでは最も強力なコミットメントを紹介しよう。

チェーン店は地元店に、次の赤矢印のように「参入してきたら徹底的に戦う!」という意思表示をすればよい。信憑性があれば、地元店は参入したら利得-100、参入しなければ0なので、参入しない方が良いことになる。

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しかし、言葉でただ言うだけではもちろん信憑性がないので、どうするのが効果的なのだろう?

そのひとつの答えに「参入してきたら徹底的に戦う。」と言った後、「初めに参入してきた地元店を、徹底的に競争して、ぶっ潰してしまう。」という方法がある。つまり、本当に競争するぞ!というのを実践してみせるのだ。

そうすることで、競争したひとつの地域では次の通り、チェーン店は300の利得しか得ることができない。

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しかし、他の地域では、地元店は参入すれば競争されるというコミットメントを信じるざるをえない。いわば見せしめだ。

ひとつの地域だけ、合理的ではない選択をして利得を700から300に減らしてしまうが、それによりコミットメントの信憑性を得て「他の地域の利得を1,000から700に減ることを防ぐ」という、ひとつの合理的な戦略というわけだ。

このように、合理的な判断を合理的にしないこともある、ということがパラドクスの所以だ。

では、地元店は何もすることができないのだろうか?実はそうではない。これも新規参入を防ぐ~中小企業編と同じ考え方だが、チェーン店が競争できないように仕掛ければ良い。

競争してしまうのは、同じ商品や同じサービスを扱っているからだ。そうではなく、ニッチ市場の考えのように、チェーン店が競争しても得をしないように出店すれば、うまく立地条件やチェーン店の集客性の恩恵だけを受けることができる。

現実でも、大きい食料品スーパーの中や近くに、鍵屋さんや床屋さん、はんこ屋さん、和菓子屋さんなどを目にしないだろうか。競争をしなくてもいい出店であれば、うまい具合にお互いがお互いの恩恵に与り共存することができるわけだ。