ルパンと次元だけじゃない!囚人のジレンマ~詳細編

合理的に行動した結果が、お互いにとって望ましくない結果になってしまうという囚人のジレンマ。しかし、組織犯罪をするわけでもないし、ルパンと次元のような司法取引のような状況なんてありえない。こんなのレアケースだし、ほとんど関係ないのだろうか?

というと、そうではなく、同じような状況は数多く世の中に潜んでいる。

まずは、囚人のジレンマの状況を掴むために、自白を「裏切り」、黙秘を「協調」としてポイントをまとめてみよう。囚人のジレンマのポイントは次の3つである。

・相手が協調するときには、自分は裏切った方がいい

・相手が裏切るときにも、自分は裏切った方がいい

・しかし、2人とも裏切った場合、2人とも協調した時より悪い結果になっている

このような状況は「みんながみんな、自分だけ裏切れば得をする。しかし、みんなが同じように裏切ってしまうと痛み分け。それなら初めからみんが裏切らないで協調した方がよかったのに。」という状況だ。

「自分1人だけが抜け駆けすれば得になる」ということがわかっていて、しかし他の人も同じように考える結果、みんなで抜け駆けしようとしてハマってしまうと、囚人のジレンマに陥ってしまう。

このような状況を、簡単にプレイヤーがA,Bの2人と考えて、利得を○×で表してみよう。

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※(◎>○>△>×)

これが囚人のジレンマである。この状況では、A,Bともに裏切りが支配戦略になり、常に裏切りのインセンティブが働いている。そして、2人とも裏切るというパレート最適ではない悪い結果がナッシュ均衡になってしまう。

そもそも、裏切りとは「集団の利益を犠牲にして、個人の利益を優先する」ときに起きる。その最たる例が囚人のジレンマなのだ。「裏切りなんて、普通の人はそうはしないさ、気にしすぎだ。だから結局は囚人のジレンマなんて関係ないさ。」というふうに思うかもしれないが、「裏切り」という言葉には思えないような状況でも、囚人のジレンマは多々起こっている。

次のゲームを見てみよう。

2人で行うゲームがある。あなたは今、黒いカードと赤いカードを持っている。あなたの相手も黒いカードと赤いカードを持っている。

・赤いカードを出せば、国から「あなたに」2万円もらえる。

・黒いカードを出せば、国から「相手に」3万円支払われる。

今から、いっせーのせ、であなたと相手が同時にカードを出す。あなたは、どちらのカードを出すだろうか?

こう言われると、赤いカードを出すと答える人は多いのではないだろうか?実はこれも囚人のジレンマなのだ。このゲームを表すと、次のようになる。

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これは、先ほどみた囚人のジレンマと同じ構造だ。赤が支配戦略となっている。赤を出し合うよりも、お互いが黒を出した方が、2人とも、もらえるお金が多いことがわかる。

このゲームは、囚人のジレンマの状況を端的に表している。囚人のジレンマは、「協調するか、裏切るか」という選択の問題だ。そして「みんなで協調すると大きな利益が集まり、社会的に良い結果になる。その逆に自己の小さな利益ばかりを優先すると、合理的な選択でも社会的には悪い結果になる。」それが囚人のジレンマなのだ。

「裏切りなんてそうはしないさ、だから結局は囚人のジレンマなんて関係ない。」という言葉に先ほど納得をしたとしても、今のゲームのように一見すると非常にわかりにくい場合も現実には往々にある。今のゲームでは、赤いカードを出すことは「自己の小さな利益を優先した裏切り」なのだ。

囚人のジレンマの構造を知り、それをどのように防いで、どのように望ましい状態に持って行けばよいのか、という解決策や対応策を知れば、多くの場面で、裏切られないための方法が見えてくるし、望ましい結果を生むための方法も見えてくる。

元となっている構造が同じなので、解決策や対応策の考え方を、同じように使えるという場合は多い。

囚人のジレンマの事例は、司法取引のような裏切りの状況だけでなく、身近な問題から、経営上の問題、政治的なもの、果ては生物学的なものまで存在する問題であるので、まずはそれを少しのぞいてみよう。