囚人のジレンマで、最もうまく立ちまわる単純なルール

囚人のジレンマで裏切りを防ぐ状況を見てきたが、デフレスパイラルのように、囚人のジレンマの状況は延々と繰り返されることも多い。経営にしろ、人間関係にしろ、同じ相手とゲームを繰り返し行うことは現実でも多いのだ。

では、そのような囚人のジレンマの状況が繰り返される場合に、どのように立ち回るのが最も良いのだろう?この最良に立ち回るルールを理論ではなく、実験により探そうとした人がいる。政治学者のアクセルロッドという人だ。

この実験は、あらかじめ「どういう場合に裏切り、どういう場合に協調するか」ということを設定したルール同士を何度も対決させ、そして最後に一番利得が多いルールが優勝というものであり、2回ほど行なわれた。

ここではその結果を予想してみよう。

クイズ:この実験で、2回とも優勝したルールがある。次の①~⑤の中うちどれだろう?直感で選んでみよう。

①常に協調を選択する。

②常に裏切りを選択する。

③初めは協調し、相手が協調している限り協調を続ける。ただし、相手が一度でも裏切ったら後は裏切り続ける。(トリガー戦略という。)

④相手の行動の確率を求め、相手の行動を予測した上で、自分の行動を決定する。

⑤初めは協調し、それ以後は、相手が前回取った行動と同じ行動をとる。

※実験では、他にもいくつものルールが出場している。

①~⑤のルールを行う人が現実ではどういう人なのかと考えてみると、次のような感じだろうか。

① バカ正直

② 人間不信

③ 一度裏切ったら絶対に許さない頑固者

④ へ理屈

⑤ 相手次第

さて、クイズの答えは⑤だ。この戦略はおうむ返し戦略しっぺ返し戦略と呼ばれる。

「目には目を、歯に歯を」という旧約聖書の一文には、実は囚人のジレンマでうまく生きていく秘訣が隠されていたのだ。このおうむ返し戦略が持つ重要なポイントは、3つある。

・自分からは裏切らない(信頼関係は自分から壊さない)

・裏切られたらすぐに裏切り返す(報復がわかりやすい。報復しないとなめられる)

・相手が改心したら許して信頼関係をまた築こうとする(心の広さ)

こちらからは裏切らない、裏切った場合は厳しく接しに、しかし改心したら寛容に。そういう人が、最終的に最も得をするという結論だ。

相手の行動に自分の行動をゆだねるというのは、先ほど見た囚人のジレンマの解決策のひとつである「コミットメント」を用いる状況にも似ている。もちろん、これを実世界でもすぐに実践すれば絶対に良いというわけではないが、ポイントは覚えておこう。