競争相手を飲み込むトラスト

カルテルやトラストと聞くと悪いイメージを想像する方も多いだろう。法律上も独占禁止法でカルテルやトラストは禁止されている。

ただ、囚人のジレンマの有効な解決策には違いないし、考え方は参考にできる。まずは「ゲーム自体を変えてしまう」という発想のトラストから見ていこう。

トラストは「2社が競い合って価格を下げて2社とも利益が減ってしまうのなら、その2社を1社にしてしまえ」というものだ。そうすると価格を下げて競い合う競合企業という関係から、お互いの利益を足したものを増やそうという1つの企業になる。

吉野家と松屋の例では、この2社が合併して吉松屋となり、元の吉野家、松屋は「吉松屋の吉野家支店」「吉松屋の松屋支店」となるということだ。

吉野家と松屋の例を振り返ると、合併前は次のような囚人のジレンマの状況だった。

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これが、合併後は次のような構造に変わることとなる。

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つまり、「吉野家、松屋がそれぞれ別個にどうするか」ではなく「吉松屋が、吉野家支店と松屋支店の価格を決めるだけ」という相手がいない1人のゲームとなる。

すると、上の赤丸のように、6,000が吉松屋にとって一番利得が大きい。これは吉野家、松屋がともに価格を据え置くという状態であり、別々では達成できなかった結果を達成することができるわけだ。

このように「競争相手がいるから企業にとって悪い結果になる、では競争相手を飲み込んでしまおう」というものがトラストだ。

なお、トラストよりもさらに大きく、牛丼業界を超えて外食業界、果てはその他の金融業界というように、多くの業界をくっつけてしまい、より強力なものにしようとするコンツェルンという形態もある。日本で言えば、戦前の三菱、安田、住友、といった財閥などがこれにあたる。これも法律で禁止されているが、考え方は重要だ。