心理があなたの邪魔をする~リスクという不確実性

株式相場やFXなどの勝負ごとでは、「人間の心理」というものが合理的な判断を狂わす場合は非常に多い。

突然だが、次のような状況であなたはどちらを選ぶか考えて欲しい。

ケース1

① 8,000万円もらえる

② 80%で1億円もらえるが、20%で何ももらえない。

多くの人が①を選んだのではないだろうか?実はこれはどちらも期待値で見ると価値は変わらない。①は確実に8,000万円もらえるし、②も、1億円×0.8+0円×0.2=8,000万円の期待値だ。

では、①と②の違いは何かというと、①は確実だが、②にはもらえないかもしれないという不確実性があることだ。この不確実性のことをリスクという。

ケース1で①を選んだ人は、①と②の期待値が同じにもかかわらず、①を選んだ。つまり②だけにあるリスクが嫌いだったのだ。こういう人をリスク回避的という。ケース1で①、②どちらでもいいや、と思った人はリスクが判断に影響していないのでリスク中立的だ。②を選んだ人はリスクがある方を選んでいるのだからリスク選好的である。

では、次の状況でどちらを選ぶか考えて欲しい。

ケース2

① 8,000万円の借金を負う。

② 80%で負う借金が1億円になるが、20%で借金はチャラになる。

今度は②を選んだのではないだろうか?今回もどちらも期待値はかわらない。①も②も期待値では8000万円の借金であり、違いは、①は確実だが②には不確実性つまりリスクがあるということだけだ。

ケース2でも①を選んだ人はリスク回避的、①と②どちらでもいいやと思った人はリスク中立的、②を選んだ人リスク選好的だ。

ここで、ケース1とケース2の違いは、「自分に利益がある状態」か、それとも「損失がある状態」かということである。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カールマンのプロスペクト理論では、ケース1では①を、ケース2では②を選ぶ人が多いということが実証されている。もちろん、リスクへの感じ方は、保有資産や、金銭感覚、性格によっても異なる。しかし、一般的に、人間は、次のような傾向があるということが実証されているのだ。

・利益が出ているときはリスク回避的な行動をとりやすい

・損失が出ているときはリスク選好的な行動をとりやすい

つまり、ケース1で①をケース2で②を選んだ人は、多数派なのだ。これを投資行動に当てはめると、次のようになる。

・利益が出ているとき:必要以上に早めに利益を確定

・損失が出ているとき:淡い期待を抱いて、塩漬け

先ほど見た、株式投資におけるミニマックス戦略の損切りという方法は、不確実な損失を確定し、早めに対処しようという戦略だった。しかし、人間の心理は、損失が出ているときは、損切りが行いづらい状態になりがちなのだ。

また、この心理的な力は、損失が大きくなるほど強く働いてしまう。

ここで、2,000円で買っていた株が、400円になってしまったとしよう。現在80%の損失を抱えている状態だ。(原発後の東京電力をイメージしよう。)

この後、次のような予想をしたとしよう。

・10%の確率で、急激に回復し2,000円に戻す。

・90%の確率でさらに値下がりし200円になる。

この場合、期待値で見ると、今の株価は400円だが、2,000円×10%+200円×90%=380円であり、今の株価より期待値が5%も低く、自分の予想に従えば、400円で売ってしまった方が合理的なことは分かるだろう。

しかし、ここまで下がってしまったら200円になっても「80%の損失が90%になるだけで、たいして変わらないやー」、と考えてしまう場合が多いのだ。悪く言えば、「どうでもいい」という場合が多い。現実には、400円から200円では株価は50%もの大暴落なのだが、そのことが、当初から見た損失が80%→90%と、都合の良い数字で見えてしまうのだ。

このように、ひとたび損失が大きくなると、自分が「現在置かれている立場」で物事を考えることすら難しくなってしまう。本当は、一度売って別の銘柄を探したり、反転を確認してから購入する方が勝てる可能性が高くても、ムダなこだわりや、淡い期待など、心理的な側面から合理的な行動が束縛されやすいのだ。

だからこそ、株式投資ではゼロサムゲームの最善戦略であるミニマックス戦略を思い出し、そして、リスクに対する一般的な心理を知り、それらを克服しなければ、長く勝つことはなかなか難しいのだ。

「株は誰でも儲かる」なんてご時勢に惑わされてはいけない。