新規参入の成功と失敗~発泡酒の価格戦略
新規事業に新たに参入!というニュースはよくみかける。
新規参入は、大企業同士の競い合いから、大企業が中小企業を潰しにかかるような参入まださまざまだ。新規事業で新しい市場を作りあげ、そこに多くの企業が次々と参入してくる場合もあれば、成熟した市場で少数の大企業が牛耳っている業界に果敢にチャレンジする参入もある。
ここでは「発泡酒」が発売されたころの話を例として見ていこう。現在では市場に普通に出回っている発泡酒だが、実はお酒の中ではかなり新しい商品だ。
バブル崩壊後の不況で給料が減ってしまう中「ビールは高い」「でも飲みたい」という2つの欲求が消費者にあった。そこに注目して発売された商品が発泡酒であった。
もちろん、ビールをある値下げできればよかったのだが、ビール、たばこ、ガソリンといった商品は、税金が高く、原材料費や流通コストを抑えても大きな値下げは難しく、ビールのままでは消費者の希望には答えることができなかった。
そこで、法律上でビールに属さないように、麦芽の比率を下げて似たような味の商品を作ろう!そうすれば税金がビールより安いので、より安く、ビールに似たお酒を提供できる!!という考えで生まれたのが発泡酒というわけだ。欧米では当時から麦芽比率が低いビールは数多く存在していたこともあり、こうして節税型ビール、つまり発泡酒が日本で生まれたのだった。
現実のビール業界は、これから消費者が増える、つまり「市場が成長すること」があまり期待できない業界だ。そのような業界では、今いる顧客の取り合い、つまりシェア争いが重視される。ある程度のシェアを取らなければ赤字になってしまう業界だ。
バブル崩壊後の不況で、ビールの売上が伸び悩む中、節税型ビールという新規市場を開拓しようとしていたサントリーは、1994年に発泡酒「ホップス」という商品を他の会社に先駆けて真っ先に商品化した。
ホップスは麦芽比率を低くするといっても、比率65%とできるだけ高くしたため、味はかなりビールに近いものを作り出せたそうだ。そして税金の違いで350ml缶をビールより45円安くすることができた。当時ビール225円に対して発泡酒180円で販売したのだった。
もちろん、サントリーは不安だっただろう。ビールに近い味が作れたとはいえ、若干ビールより味が違う。価格は安くしたものの、本当に受け入れてもらえるのだろうか?
結果は大成功だった。消費者の「ビールは高い」「でも飲みたい」という希望に見事にマッチし、発売後すぐにヒット商品になったのだ。サントリーは、もともとはブランデーなど洋酒の分野に非常に強い会社であり、当時のビール業界ではシェアはあまり大きくなかった。しかし発泡酒によって一気にシェアを獲得できた。
「こうしてサントリーの発泡酒という新規市場の開拓は見事に成功に終わったのだった。めでたし、めでたし。」と、うまい具合に話は終わらなかった。
ヒットし、成功をおさめたのを見たライバル会社はもちろん黙ってはいなかった。サッポロが、サントリーの成功の後、発泡酒という新規市場に参入してきたのだ。麦芽比率を25%に抑えた発泡酒「ドラフティー」を市場に投入した。この間わずか数ヶ月。比率を25%未満にすればさらに税が安くなり150円という価格であった。
それを見たサントリーだが、ホップスの価格を下げて対抗することはしなかった。その結果はというと、サッポロが発泡酒市場に参入した後、数ヶ月間で、ドラフティーの売上はホップスを抜き去ったのであった。サッポロは、サントリーが開拓した市場に後から参入して、たった数ヶ月でサントリーを追い抜いてしまったのだ。
この話について、「考え方などを勝手に想像しながら」この話についてゲーム理論で考えてみよう。