戦うのか・逃げるか~ゲームの木で探る最善戦略1

先ほど見たとおり、サントリーは、サッポロが低価格で参入してきた時に何もせず、せっかくつくった発泡酒の市場のシェアを奪われてしまった。それは何故だったのだろう?

サントリーは、サッポロが150円の発泡酒で参入してきた時に「このまま180円でいくのか、それとも値下げするのか。」という選択を考えた。つまり、「低価格」か「価格維持」かだ。

そして、サントリーの出方に対し、サッポロが「このまま市場に残って戦うのか、それとも尻尾を巻いて逃げ出すのか」を選び、最終的な結果が決まるとサントリーは考えていた。つまり、「継続」か「撤退」かだ。

サントリーは今の市場とサッポロの商品を考慮し、次のように考えていた。

「発泡酒はビールを安くした商品として市場に出したのだ。サッポロの発泡酒は確かに安いが、麦芽が25%と味がビールから遠ざかりすぎた。これならうちが価格を下げないで、さらにサッポロが戦いを継続したとしても、うちの商品が勝つだろう。」

そして、起こりうる状況の利得を次のように予想したようだ。

パターン1 サントリー:低価格、サッポロ:継続

利得 サントリー:800 サッポロ:-200

サッポロは、あの味では、利益が出るほどの十分なシェアを取れない。この業界はある程度シェアを取らないと費用がかさみ続け、赤字になってしまう業界だ。赤字が続けば、結果的に-200の利得になるだろう。しかし、そうはいっても価格が安いし、サントリーは若干シェアは奪われてしまう。そして、競争相手が増えたら、広告や調査も必要になるし、費用はかさんでしまう。このときサントリーの利得は800になるだろう。

パターン2 サントリー:価格維持 サッポロ:撤退

利得 サントリー:2000 サッポロ:-100

サッポロが諦めてすぐに逃げ出せば、サッポロの傷口は作ってしまって売れ残った在庫だけ。保存も利くので、このとき、-100という利得だろう。サントリーは1人勝ち、ムダな費用もかからずシェアも奪われないので2000の利得になるだろう。

パターン3 サントリー:低価格、サッポロ:継続

利得 サントリー:100 サッポロ:-500

サントリーが価格を下げれば、サッポロはさらに苦戦する。パターン1では、味がビールと違っても価格が安いことでサッポロは若干シェアを奪えると予想した。しかしこの状況ではサッポロには安いという強みもない。サッポロのシェアはさらに厳しくなり赤字幅は広がってしまう。-500の利得となるだろう。一方、サントリーは、麦芽比率が高く税金が高いにもかかわらず価格を下げたのでは、利益がかなり減ってしまう。さらに、ほぼ独壇場とはいえ、相手がいたのでは、やはり広告や調査の費用はかかってしまう、この状態では100の利得に留まってしまう。

パターン4 サントリー:低価格 サッポロ:撤退

利得 サントリー:1000 サッポロ:-100

サッポロが諦めてすぐに逃げ出せば、サッポロの傷口は作ってしまって売れ残った在庫だけ。保存も利くので、このとき、-100という利得だろう。そしてサントリーは1人勝ち、費用もかからずシェアは少しも奪われないが、価格を下げたせいで利益は減ってしまい、1000の利得になるだろう。

サントリーが考えたこの状態をゲーム理論では次のように表すことができる。

7

このような表し方をゲームの木という。それぞれ交互に意思決定をして、矢印の方向に時間が流れて行き、最後の結果が生まれる。言葉で表すよりも随分と見やすくなっているだろう。