新規参入を防ぐ!既得権の守り方~大企業編

サントリーが開拓した発泡酒の市場は、サントリーとサッポロの2社でシェアを取り合う形がしばらく続いていた。しかし、それも長くは続かなかった。ビール業界の大手キリンが参入し、たちまち発泡酒市場の50%のシェアを奪ってしまったのだ。さらにアサヒも参入し、今日では、ビール市場と同じような競争が続いている。

このように、大きな企業の寡占状態の市場といえども、新規参入者にシェアを奪われてしまうことは多い。ここでは、大企業が新規参入を防ぎ、既得権を守る方法を考えてみよう。

前回見たとおり、サッポロは「もうたくさん生産してしまったから今さら撤退できない。」というコミットメントを使うことで、サントリーに価格維持を迫ったが、その前の段階で考えてみよう。

ここで、サントリーが、サッポロが動く前に「参入されたら絶対に低価格で戦ってやる!」というコミットメントをしていたらどうだろう。これは、次の赤矢印のようなコミットメントだ。

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すると、サッポロは参入しても泥沼の戦いをして-500か、撤退して-100という結果しか待っていない。もはやサッポロの望む結果は達成できないので、サッポロは参入しない方がいいだろう。ただ、これも口で言うだけでは信憑性を持たないわけだ。

現実では以下のように新規参入に対する対策が行われている場合が多い。

1.過剰の在庫や生産設備を先に作ってしまう

値下げをすれば、需要が増えるので販売量が増える。通常よりも過剰な在庫や生産設備は、将来的に販売量を増やしたり、在庫をさばくために値下げすることを見越しているように相手からは見える効果もある。つまり、相手に新規参入されたら、いつでも値下げする準備がある、いつでも競争できる準備がある。そう思わせる効果もあるわけだ。

2.初めから値下げしておく

初めから値下げをしておくのはもっと簡単だ。要は「低価格な市場に参入するのか、しないのか、どうぞご勝手に!」という具合に、あなたの望む結果はもうありませんよ、という状態にはじめからしてしまう方法だ。

現実でも、初めから低い価格を設定することで、他の企業の参入を牽制し、競争力を高めるという戦略はよく使われている。

3.初期の販売量を増やす

これは、継続的なサービスや、新しい家電など一度買ってしまうとしばらく買い換える必要がない商品では効果的な戦略のひとつだ。

相手が参入してしまう前に、顧客をすべて奪い取ってしまい、参入しても「お客さん、もういませんよ?」という状態にしてしまう戦略である。新製品に過剰なくらい宣伝し、さらに、いきなり値引きしたり、方法は様々だ。遅れて参入しようとしても、もはやシェアが見込めないのでは、当然、参入する魅力は低くなる。

4.価格以外のプレミアムをつける

同じ服でも、ブランド品は、性能が同じでも高く売れる。自社製品に、ブランドやイメージといった価格以外の魅力をつけることで、一部の層を完全に自社だけの顧客として取り込んでしまい、競争にならない状態を作ってしまう方法だ。現実でも、「価格は高いけどあのメーカーの商品にする」ということは多いだろう。