新規参入を防ぐ!既得権の守り方~中小企業編
次は、中小企業が新規市場を開拓した場合に、いかに大企業の参入を防ぐかを考えよう。
小さな企業が新たな市場を開拓しても、大企業がそこに参入して、根こそぎ顧客を奪われてしまうなんてことはよくあることだ。資金力、知名度、販売力などで負けているので、まともに戦っても勝てないからだ。
中小企業がコミットメントで価格を下げても、大企業は体力があるため「まずは泥沼でぶっ潰して、それから、ウチだけになったら価格を上げて採算を取る」という強攻策すら可能だ。さらに、お客を取り込もうとしても、知名度や販売力、ブランド力は大企業が上なのでなかなかうまくいかない。せっかく新規市場を開拓して成功しても、それを継続し、大企業に勝ち続けるのはなかなか難しい場合が多いのだ。
ではどうしたら、中小企業は大企業の参入をうまく防ぐことができるのだろう。今見たように参入されて競争すると負けてしまうので、既得権を守るには、そもそも大企業が参入できないか、参入する必要がないようにしておくことが効果的な防御策となる。
1.参入不可能な技術や特許が必要な市場を開拓する
これは「相手が参入不可能なところで初めから戦おう」ということだ。可能であるならば最も望ましい。それが、コアな技術や特許であり、自分達がいなければ大企業ですら何もできない場合には、大企業が向こうから提携や協力を必死になって求めてくるだろう。こういった絶対的な競争力をコア・コンピタンスという。
これがあれば、大企業は自分達と競争するどころか、大企業同士が勝手に競争し、必死にあなたの企業との提携を取ろうと良い条件を出してくる。大企業から必要とされ、誰にも邪魔されず、誰にもできないような市場。難しいが、それこそ中小企業が開拓して最もおいしい市場だ。
IT技術、生産技術、販売網、高度な知識など「このプログラムがないと何もできない」「この部品がないと、製品が作れない」「あの国のあの企業から仕入れることができるのは、この会社だけ」といった感じだ。
2.ニッチ市場を開拓する
これは1.とは全く逆を行く。大企業が必要としない市場を開拓する方法だ。市場はあるものの、大企業がお金を掛けて参入して採算が取れるほどの大きな利益は上がらないという市場を開拓する。見向きもされない小さいところで独占的にやろうというイメージだ。
こういった市場をニッチ市場という。ニッチとは隙間という意味で、大企業がカバーしている市場以外の、余った部分のことだ。大企業がいない市場はすべてがニッチ市場といえる。
こういったニッチ市場を開拓した場合に、大企業の参入を防ぐために気をつけることが一点ある。それは普段の経営とは全く逆であり、「市場を大きくしすぎない」ということだ。
商品の価値を高め、対象となる年代を増やし、そうやって市場を大きくしすぎると、いつの日か大企業にとって参入した方が良くなってしまうという状況がおきてしまうのだ。
大企業は動きが遅く参入するにもそれなりのコストがかかってしまうため、市場が小さいと参入しても採算が合わない。しかし競争力があるので、市場が大きくなると、顧客の多くを奪い取ることで十分な利益が上がるようになるわけだ。これは、次のような状況だ。
これをバックワードインダクションで解いてみると、次の赤矢印のようになる。
中小企業が市場拡大の時は、大企業は参入する(大企業の利得500>0)。また、中小企業が市場維持の場合は参入しない(大企業の利得0>-100)。
それをしっかり合理的に読むことができれば、中小企業は市場を大きくして、大企業に参入されて100の利得となるよりも、市場を大きくせず、今まで通り小さな市場で独占的に500の利得を取った方が良いことがわかるだろう。
しかし経営者としては、ニッチ市場を開拓して成功すれば、その市場を大きくして成長させたいものだろう。大企業が参入しないまま、自分だけしかいない状態で市場が成長すれば、確かに上のように利得は1,000と大幅に上昇する。しかし、それは相手のことを考えていない自分勝手な考えにすぎない。市場を大きくして目立ち始めると、あるとき他社の参入により競争が激化し、あっさりと市場を奪われてしまうのがオチなのだ。
もし市場を大きくするのであれば、競争しても顧客を相手に奪われないような囲い込みの工夫が必要となるのだが、しかし、そもそも競争しては分が悪いからニッチ市場を開拓したということを忘れてはならない。