野球のセオリーから見る支配戦略

支配戦略とは、相手のどんな戦略に対しても、必ず有利になる戦略だ。そう言われればその通りなのだが、具体的にイメージするのはちょっと難しいかもしれない。ここでは、ちょっと話をそれて、野球のセオリーから支配戦略を見てみよう。

野球のセオリーのひとつに「2アウト3ボール2ストライクの場合、ピッチャーが投げると同時にランナーはスタートをきる」というものがある。野球を知らない人は一度試合を見てもらえれば、この場面だけは必ずランナーが走り出すのを確認できるはずだ。

これはまさに支配戦略(弱支配戦略)の一例である。ランナーは、この状況では、走るのか、走らないのか、という2つの選択肢がある。ここで起こりえる結果について、ランナーが走った場合と走らなかった場合を比較してみよう。

・バッターが打たなかった場合

三振した場合は、走った場合も走らなかった場合もどちらも回が終わるだけ。フォアボール、デッドボール、ボークなどの場合も、走った場合と走らなかった場合の結果は変わらない。

・バッターが打った場合

ファールの場合は、走った場合は元の塁に戻され、走らなかった場合は塁にいるままなので結果は変わらない。フライやファールチップの場合は、その回が終わるだけでどちらも結果は変わらない。ホームランの場合も、ランナーは走っていようがいまいがホームインするので結果は変わらない。

しかし、バッターが打ってフェアグラウンドにボールが転がりヒットになる場合だけは、ランナーが走った場合は、走っていない場合より、先の塁へ進みやすく、得点を上げるチャンスが広がるのだ。

これらをまとめると、次のようになる。

・ヒットの場合(振り逃げも含む) 走る場合>走らない場合

・それ以外の場合 走る場合=走らない場合

つまり、2アウト3ボール2ストライクでは、ランナーがスタートを切って走りだすというセオリーを実践すると、どんな結果が起きても、走らない場合と比べて、同じか、良い結果しかもたらさないのだ。つまり、このセオリーは支配戦略を実戦しているわけだ。(なお、支配戦略で、同じか良い結果しかもたらさないものを弱支配戦略、良い結果しかもたらさないものを強支配戦略という。どちらも合理的な戦略である。)

そして、相手の支配戦略(セオリー)が分かっていれば、相手が次に取る戦略は当然、支配戦略だと予測できる。野球で言えば、守備チームは当然このセオリーに準備をし、場合によっては前進守備を取るなど、支配戦略に対抗する戦略をうまく考えるわけだ。

野球は2アウトからと良く言われるが、ランナーがいる場合、2アウト3ボール2ストライクからのヒットの方が得点は入りやすい。これは、この支配戦略がひとつの原因だ。

支配戦略のイメージはなんとなく掴めただろうか?要は「こうするのが、他より絶対にイイ!」という行動だ。自分の支配戦略、そして相手の支配戦略を見つけることは、野球のようなゲームでも、日常生活でも、ビジネスでも大きな意味を持ち、有利に物事を進めることができる。

特に、スポーツのセオリーと呼ばれる戦略の中には、このように支配戦略を実践しているものは非常に多い。自分が好きなスポーツにセオリーがあるのなら、何故そうするのかを考えてみると、支配戦略が見ける練習になるだろう。