OPECの価格協定は崩壊し、談合は続くその理由

このように、カルテルで価格を据え置けば、価格競争を防ぐことができる。

しかしカルテルといっても所詮は口約束だ。「自分だけ裏切った方が得になる」という囚人のジレンマの状況であることに変わりはない。つまり、カルテルを組んだとはいえそこには常に裏切りのインセンティブが働いているのだ。

OPEC(石油輸出国機構)は、石油輸出が大きな産業となっているアラブの国々が集まり、石油価格などについて話し合いをしている機構だ。1970年代にOPECは石油の価格協定(みんなで同じような価格にすること)を結び、1970年~1980年にかけて石油の価格を10倍に引き上げたのは有名な話である。このような価格協定はカルテルの一種で、わが先にと、自分の国だけ石油を多く売ろうと値下げしていた国々をまとめあげ、一斉に価格を引き上げみんなが得をすることができたのだ。これは、囚人のジレンマ状態を脱出したケースのひとつである。

ただこの話には続きがあり、1980年から1985年にかけて石油価格は3分の1にまで下落したのだ。価格が大幅に上がった分「今裏切って値下げすれば、わが国だけ石油を大量に売れる。値下げしても十分に高い価格だし、物凄い利益だ」という具合に裏切りのインセンティブが増してしまったのだ。そして囚人のジレンマの誘惑に負けた国が出てきたのであった。もちろん、単純な誘惑のみではなくOPECに加盟していたイランとイラク両国の戦争も原因で「あんなやつと協調なんてしていられるか、さっさと値下げした方が得なんだし」という考えなどもあったのだろう。とにもかくにもOPECのカルテルは一度崩壊している。

このように囚人のジレンマの誘惑に負けたとき、カルテルは簡単に崩壊する。一度崩壊してしまえば、一国だけ安い価格で売る状態では、その他の国は顧客をすべてとられてしまうので、競争に応じるしかなくなる。牛丼の例で見たデフレスパイラルの状況になってしまうのだ。

逆に、囚人のジレンマの裏切りの誘惑に長く絶え、延々と続いているカルテルもある。それは日本の建設業界の談合だ。建設業界の談合というと公共事業の入札が有名だ。

公共事業の入札は、政府が「この工事をいくらでやってくれますか?」と多くの建設会社に入札を募集し、一番安い費用でやってくれる建設会社に仕事を頼む方法だ。

放っておけば「自分の会社が仕事を受けるために」と各会社が競争し、それぞれが安い価格を書いて入札するだろう。談合ではこれを事前の話し合いで回避する。今回は誰が入札するかを事前に順番を決めておき、高い価格で入札して普段より多い利益を得る。公共の工事は多額なものが多いが、さらに普段より2倍も3倍もの価格で入札しそれが通るのだからそれはおいしいだろう。日本の建設業界ではこのような談合が長らく行われてきた。

しかし、ここで疑問が起こる。談合でどのような入札結果になるのか事前にわかっているのであれば、裏切って自分だけ少し低い価格で入札すれば、相当に大きな利益が自分だけに転がり込んでくる。OPECと同じような囚人のジレンマの状況だ。

しかし、談合は長いこと崩壊することなく行われており、建設業界の前提ともなっている。税金の無駄遣いや賄賂や不正など悪い側面もあるが、そこには囚人のジレンマを解決するポイントが隠されている。