囚人のジレンマで裏切りを防ぐ~秘訣集2

2.罰則を設ける

2つ目の囚人のジレンマの解決策は、罰則だ。これは、裏切ったら処罰されるということをゲームに付け加えてしまう方法だ。

口約束で処罰というのは難しいが、例えば、「裏切ったら二度とお前とは取引しない」という経営方針などだ。罰が大きければ大きいほど、裏切らせないようにする力は強くなる。建設業界の談合でも、裏切った会社には、その後仕事が全く回らなくなったり、他にも色々とあるようだ。

このように罰則は、裏切った場合の利得を大幅に減らすことで、ゲームの構造をうまく変えてしまう解決方法である。

元々の囚人のジレンマの状況は次のようなものでった。

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この状況から、裏切った場合の利得を大幅に減らすことで次のようにゲームを変えてしまうわけだ。

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このように、裏切った人は利得が大幅に減ってしまう状況では、支配戦略は「協調」になっていることを確認して欲しい。

AもBも、相手が協調する場合には自分も協調した方がいいし(○>△)、相手が裏切った場合でも自分は協力した方がまだいい(×>××)。つまり、相手が強調しようが裏切ろうが、「協調しなければまずい」という状態なわけだ。こうしておけば、2人とも合理的に判断してお互い協調するという結果へと導くことができる。

この罰則は、現実で行われている場合も多い。

面白い話では、アメリカの組織犯罪では裏切らないように「裏切って自白したら殺す」という組織が多いそうで、そこで、アメリカ警察はこの罰則を逆手にとって「自白しないと、すぐに釈放するぞ。」と脅すことがあるらしい。

今すぐ釈放されれば、実際は自白してなくても、組織の仲間は「自白したから早く釈放されたんだな。罰則通りあいつは殺すか。」と思ってしまうためだ。自白しないと、「出所させられて殺されてしまう」というように、このように罰則を逆手に取っているわけだ。

また、身近なところでは規範や慣習も罰則になる。例えば、NHKの受信料は、払わなくても罰則がないが、「噂」や「非難」といった社会的な制裁が待っている。このように社会的な規範や慣習といったものも、囚人のジレンマの状況を防いでいる効果がある。

加えて、信頼関係も同じ働きをする。信頼関係を壊したくない相手であればあるほど、裏切った時の利得は大幅に減ってしまうからだ。信頼関係を築いた人の間では当然ながら裏切りは起こりにくい。


ただし、罰則は、囚人のジレンマを防ぐように常に機能するわけではない。罰則が微々たるものだと効果は出ないし、そして相手が理解できない・気づかないのでは効果がない。加えて、罰則があっても「どうせ適用されないだろう」というザル法では意味がない。このようなことを避け、罰則にうまく裏切り防止効果を持たせるために気をつけるには次の3つのポイントが重要になる。

・裏切りによる得られる利益より大きい損失を与える。(重罰

・簡単でわかりやすく明解にする。(単純明快

・確実に罰則が適用されるようにする。(確実性と信憑性

このような罰則を設ければ、囚人のジレンマの状況を脱し、裏切りは起こらなくなる。最もわかりやすい例は犯罪組織の構成員に「自白したら絶対に殺す」というものだ。重く、単純明快、そして確実性と信憑性がある。