もっともらしい提案が通らない??交渉の謎
先ほどのインターネットのA社、広告のB社、テレビのC社は、3社すべてで合併した方が大きいシナジー効果が得られることは分かっているし、より大きな利益を出した方が自分達にとって良いことも分かっている。
しかし、なかなか合併の協議がまとまらない。
それぞれの代表者の意見をちょっと聞いてみよう。
現在の利益と合併後の利益は下記のとおりだ。
C「A、B、Cすべてで合併するのが最もシナジー効果が大きいのは先に見た通りですね。」
AとB「えぇ、その通りです。」
C「合併によって、3社がお互い独立しているよりも120-(5+40+55)=20億円もよくなっています。残りの問題は、その20億をどう分けるか?ということでしょう。」
A「その通りです。3社が協力して生まれた結果が20億円というわけです。ということは、ここは均等に配分しようじゃありませんか。つまり、20÷3≒6.7億円ずつで分ければ良さそうですね。これでどうでしょう?」
その通りだと思うだろうか?しかし、どうやら話はまとまらないようだ。
C「いやいや、それはA社さん、ちょっとおかしいですよ。だってあなたの会社の利益は、元々は5億円しかないんですよ?わが社が6.7億円増えたとしても利益は10%ちょっとしか増えないけど、あなたのところは6.7億円増えると利益が2倍以上になるじゃないですか。これは不公平ですよ?」
B「確かにその通りですね。A社さんは小さいんだし、うちやC社さんと協力できるだけでもありがたいと思ってもらわないと。」
と、元々の利益が大きいC社とB社がご立腹。交渉はさらに続く。
A「まぁ、確かにそういわれればそうかもしれませんが…、ではどのように配分をするんですか?」
C「ここは今の単独での利益に比例させた配分でどうでしょうかね。つまり、
A社さんは単独で5億の利益なのだから、シナジーで生まれる20億円のうち
20×5/(5+40+55)=1億円を つまり5→6億円に(+20%)
B社さんは単独で40億の利益なのだから、シナジーで生まれる20億円のうち
20×40/(5+40+55)=8億円を つまり40→48億円に(+20%)
そして、うち(C社)は単独で55億円の利益なので、20億円のうち
20×55/(5+40+55)=11億円を つまり55→66億円に(+20%)
という分け方なら、公平でしょう?」
B「なるほど、それなら公平ですね。」
さて、今度はその通りだと思わないだろうか?しかし、実はこの案では交渉はまとまらない。
A「いやいや、それはおかしいでしょう?これは3社が協力したから生まれた20億円です。それを1億円では少なすぎですよ。」
C「何故でしょう?このように分ければ、どの会社も利益がちょうど前に比べて20%ずつ伸びているじゃないですか。これを公平といわずに何を公平というんです?」
A「理由なんて明らかじゃないですか。C社さんの案ではうちは6億円、B社さんは48億円になりますよね?つまり、合わせて54億円です。」
C「えぇ、公平に分けますからね。」
A「それだとね、うちとB社さんだけで合併した方がいいんですよ。そうすればAB社の利益は55億円でしょ?。これを、例えば6.5億円と48.5億円でわければC社さんの案よりよくなるでしょう?ねぇBさん?」
B「確かにその通りだな。うーん。」
A「さらにC社さん、私達だけで合併したらC社さんはシナジー効果による利益を全く得られないんですよ?それで本当にいいんですか?」
C「うーん、いやまぁ確かにおっしゃる通りかもしれません。ただ、公平という観点からはうちの案が妥当なのではないですか?それでは何か代わりの提案があるんですか?」
A、B、C「……」
まだ協議は延々と続いているようだ。どうだろう、良い提案は思いつくだろうか?
このように、協力すればお互い得をすることが分かっているのに、配分方法でモメたせいで結局ご破談なんてことは、現実でも多々起こっている。
しかし、ゲーム理論の基本「相手の立場になって考える」ということに立ち返り、相手がしっかりと納得する提案であれば、モメることは激減するだろう。
そこで、次からはモメないための基本的な考え方を見ていこう。