コアな正義が拒否された理由

先ほどの例のコアは、20≧a≧5、55≧b≧40、65≧c≧45だった。

鋭い人は気づいただろうが、平均的正義、つまり均等配分であるa=11.7、b=46.7、c=61.7という案は、実はコアだ。つまり、均等配分は今回のケースでは誰も抜け駆けしても得をしないという状態なのだ。では、どうしてこのコアは拒否されたのだろう?

その一つの原因は、コアが一つとは限らないということだ。コアは「誰もが抜け駆けしない状態」の条件でしかない。そのため、複数ある場合がほとんどだ。例えばa=10、b=50、c=60 もコアだが、a=15、b=41、c=64もコアだ。

つまり、コアがわかっても3社で合併をする時、その中のどこかで交渉はまとまりそうだという範囲がわかっただけで、コアの中でいかに自分を有利にするかの交渉はまだまだ続くということだ。

先ほどの例では、元々の利益が大きいBとCが自分達の取り分が少ないと腹を立てる形で均等配分の提案は受け入れられなかった。しかし、この提案はコアであり、抜け駆けしても誰も得をしない状態なのだ。

そのため、Aは「私はこれ以外の案では納得できませんね。それではご破談になってしまいますがよろしいですか?もし私が抜ければ、あなた達の利益は私の案より減ってしまいますがね。」と、脅しをかけることもできたはずだ。

コアである以上、相手は「BとCだけで合併するよりもAの案を受け入れた方が、利益が大きい」のだ。もちろん、協議がまとまるかはAの交渉能力による。

しかし、BとCの不公平という感覚にも違和感は少ないだろう。では、何故、今回のケースで均等配分が不公平に思えてしまうのだろうか?

それは、新しく発生した利益20億のうちの各社の貢献具合がはっきりしないからだ。均等配分ではBとCの取り分が少なすぎだと感じ、そして、比例配分は公平だと感じた人は多いはずだ。貢献具合がはっきりしないのであれば、今の利益や規模などに比例して貢献していると類推してしまいやすいのだ。小さい企業より大きい企業の方が貢献具合は大きいだろう!という、ある種の先入観である。

この先入観により、核となる技術を提供してより多く貢献している小さい企業が、利益の配分で不利なコアを迫られることは多い。これを解決するには、この先入観を捨て、「うちはこれだけやっているのだから、これだけもらってもいいはずだ。」ときちんと自分の貢献が大きいことを相手が納得できる形で説明できれば、より良い条件を得ることができるわけだ。そこで、次は貢献度の図り方を見ていこう。