シャプレー値という貢献度の測り方

ここからは、協力ゲームで貢献度を計るために用いる「シャプレー値」というものを見てみよう。

これは、1+1=3となるとき、自分がどの程度3に貢献したのかを表す数値だ。シャプレー値は「方向が一緒だから途中までタクシーで一緒に帰ろう。タクシー代は後で割ろう。」「一緒に仕事した方が効率的だ。後でバイト代は分けよう。」「合併したらシナジー効果が期待できる。利益は後で分けよう。」といった場合に活用することができる。

なお、計算に少し手間がかかるので、難しい場合は軽く読み飛ばしてほしい。その際、貢献度のイメージとして、「自分が加わることでどれだけ結果が良くなるのか」つまり「自分がいなくなるとどれだけ困るのか」という認識を持っておこう。単純に「今の数字の大きさ」を見るのではなく、「自分が加わったり抜けたりすることで、どれだけ変わるのか」という変化を見るのがポイントだ。

それでは先ほどの、A、B、C3社の状況を見てみよう。

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貢献度の考え方は「自分が加わることで、どれだけ結果が良くなるのか」であった。これを3社がA→B→Cという順番で合併していくときで見てみよう。これは次のような流れで見ていく。

何もない状態→A

AにBが合併→AB社

AB社にCが合併→ABC社

まずは、何もない状態からAが事業を始める。そこで5億円の利益が出る。何もない状態にAが加わることで、0円→5億円に利益が増えた。ここでのAの貢献分は5億円だ。

次に、BがやってきてAと合併した。今度は55億円の利益が出る。Aだけの状態にBが加わることで、55-5=50億円も利益が増えている。ここでのBの貢献分は50億円だ。

最後にCが合併した。すると、120億円の利益が出る。55億円だった利益が、Cが加わることで120億円まで増える。ここでのCの貢献分は120-55=65億円だ。

このように、A→B→Cという順番で合併した時は、それぞれの貢献度はA:5億円、B:50億円、C:65億円となるわけだ。「私のおかげでこれだけ利益が増えたよね」という数字だ。

しかし、これは合併する順番で数字が変わってしまう。そこで、すべての順番で貢献度を求める。そして、その平均を取ることで、同時に合併した時の貢献度を求める。これがシャプレー値の求め方だ。

具体的には次のように求めることができる。

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つまり、シャプレー値にもとづき配分すると、Aが12.5億円、Bが47.5億円。Cが60億円となるわけだ。

結果を見ると、小さい企業のAは、実は均等配分よりも貢献が大きい。これは、Aが加わることで増える利益が大きいからである。このように、シャプレー値を求めることで、漠然としていた各社の貢献度が判明し、小さい企業も大きく貢献をしていたという事実がわかるわけだ。

このように小さい企業の貢献が大きい場合は、その小さい企業がいないと困るという状況を表している。例えば、特許、独自技術、経営手法、コネクションといった、大企業が「是非仲間に入れたい。」「それがないと困る。」と思うような魅力的なものを持っているということだ。これはコア・コンピタンスを持っている企業そのものである。

こういう核となるものを持っている企業が提携する際は、大企業側は「是非とも使わせて欲しい。」と思い、小さい企業側は「大企業でたくさん使いたい。」という具合に、お互いがお互いを活かすことシナジー効果が発生する。この状態では、「大企業は絶対に提携したい」一方で「小さい企業からすれば、他の大企業でもいいや」という状態であればあるほど、貢献度、つまり「自分が加わることでどれだけよくなるのか」・「自分がいないとどれだけ困るのか。」は小さい企業が強いことは、イメージしやすいだろう。

しかし、現実では、実際に貢献したうちの多くを、大企業に正義の配分の名の下に取られてしまいやすい。大企業に有利なのは比例配分だが、比例配分が妥当だと考える人は多いからだ。この現状を覆し、交渉で有利な立場になるためには、まずはきちんと自分の貢献度、重要性を認識することがスタートだ。この際、シャプレー値で見た、貢献度の考え方を知っているだけでも、感覚的に強みを知ることができるだろう。

このように、「何かを公平に配分する」という問題は、身近にたくさん潜んでいる。タクシー代の割り勘から、倒産による残余財産の配分や、相続、二酸化炭素の削減量をどのように国に割り当てるか、といったことも配分の問題だ。このようなときに、「好き勝手に発言する人・自分の利益ばかり考える人」と、「基本的な配分の考え方・貢献度の測り方を知っている人」ではと、交渉力や調整力で大きな差が出るのはイメージしやすいのではないだろうか。