キャスティング・ボートを握れ

先ほどの例では、選挙によって議席は半分以上減ったK党だが、実は発言力や影響力は増しているという話であった。

ここでは、過半数を取れば政策を決定できるとして、それは一体何故なのかを探っていこう。

先ほどの状況は次のとおりであった。

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K党の発言力や影響力が増した原因は、「J党が過半数割れを起こした」ことが大きなポイントだ。

選挙前の状態では、与党であるJ党が過半数を取っていたので、M党とK党が結託しようが何をしようが、J党が賛成するだけで政策を決定できていた。だが、選挙後ではJ党が過半数を割れたことで、政策を決定するためにM党かK党の協力が必要になっているのだ。J党とM党は常に対立することが多ければ、K党に協力を求めるだろう。

一方、野党で筆頭のM党は、選挙前までは嫌でもJ党の思い通りの政策を許していたが、K党の賛成さえ得られれば、逆に自分達の意見で政策を決定することができる。そこでK党の協力を求めるだろう。

かくして、J党、M党によるK党の取り合いが始まるわけだ。現実の日本でも、連立政権は同じような理由で起きている。K党は人数が減ったにもかかわらずJ党からもM党からも「うちと組まないか」と言い寄られ、今までは見向きもされなかったK党の意見や希望を組み入れることができるようになったのだ。

このように、多数派が過半数割れを起こしている状態では、少数派がキャスティング・ボートを握ることができる。キャスティング・ボート(casting vote)とは決定投票、つまり最終的にどちらか決める投票のことだ。

少数派が「イエス」と言わない限り多数派は何も決定することができない状況では、「俺達が多数派だ!」と頑固にしていれば、その他の少数派が結託してやられてしまうこともありえる。「ここは通して下さいよ、いや、無理ならあちらに頼むだけですけどね。」こうやって少数派は、今までより断然有利にことを進めることができるというわけだ。