左靴職人と右靴職人の争い~利益を捨てて利益拡大2

左靴職人に結託され、値引きを迫られている右靴職人は、どうしたものだろうか?

実はこんな状況を打破するうまい方法がある。「他の人と抜け駆けした方が得だ」という人が誰もいない状態であるコアを一気に変えて、「抜け駆けしないとやばい」という状況に変えてしまえばいいのだ。

頭がキレる右靴職人は、左靴職人の目の前で、呆れた顔で次のように交渉を始めた。

「あぁ、このまま話してもまとまりそうもないですねぇ。今までは5,000円で我慢していましが、あなたたちがそのように言うのであれば私にも考えがあります。」

と言って、目の前で一つ右靴を燃やしてしまった。そしてこう言った。

「さてと、左靴職人さんの取り分はいくらにしましょうか?私の取り分が多くなる人から順に、この靴を一緒に売ろうじゃありませんか。まぁ、余った1人には、今年は食いっぱぐれてもらうしかありませんねぇ。残念ながら、9足しかないもので。」

これはどういうことだろう?実は、このように、右靴職人が持ち数を減らして9足にすると、コアがガラッと換わってしまうのだ。実は、今度はコアが一つしかなく、右靴職人がすべての利益を得るという結果以外にありえないのだ。

「いやいや、だって私達の左靴がなければ靴の販売なんてできないわけじゃないですか。私達がこの靴をあなたに渡さないと、0円なんです。」と言った左靴職人の言葉そのままに、左靴職人の誰かひとりは絶対に0円になってしまう。

左靴職人は焦りだした。もたもたしているとひとりだけ食いっぱぐれてしまう。でも、今はみんなが右靴職人の取り分を3,000円と言っているのだから自分だけ多く取り分を上げれば自分と取引するはずじゃないか。そうして競争が始まる。

左靴職人が「じゃあオレはあんたの取り分が5,000円のままでいい。早く売っちまおう。」「じゃあオレはあんたの取り分が6,000円でもいい。頼むから売ってくれ」という具合だ。靴を売らなければ0円、売れれば取り分が少なくてもお金が手に入るので、このままだまっているより他の人より良い条件を出したほうがまだいい。この状態は、1万円札をオークションしているのと同じだ。

欲しい人は10人だが、物は9個しかない。すると、値段はどんどん上がっていく。需要(買い手)>供給(売り手)の状態、いわゆる売り手市場な状態にしてしまったわけだ。

こうすれば、小さい利益を捨てることで、大きな利益に繋げることができる。こうして、コアは「右靴職人がすべての利益」を得るという結果になるわけだ。

逆に、需要(買い手)<供給(売り手)という買い手市場の場合は、安くてもいいから売ろうという価格競争が起こる。今度は売れ残った人が食いっぱぐれるからだ。有名な例は、豊作貧乏である。これは、あまりに豊作になりすぎて、安く買い叩かれ価格が暴落し、利益が減ってしまう状況だ。だから、あまりに豊作のときは、野菜などをあえて捨ててしまい、買い手市場になって価格を叩かれすぎるのを防ぐことすら現実には行われている。

靴職人の話では、自分の持っている商品を目の前でダメにしてしまうという、現実的には考えにくい行為で、自分の立場を一気に変えてしまった。今のまま頑張ってなんとか有利になるように交渉を続けるというのではなく、発想を転換し状況を状況を根底から変えるという方法を実践したわけだ。浮世離れした話にも思えるかもしれないが、これは、現実でも活用されている。

例えば、いつも売り切れている高級ブランド品や限定品がないだろうか?売り切れているのなら、多く作ればもっと売れるのにおかしいな?と思わないだろうか。これは、数を少なくして希少性をもたせることで「早く買わないとなくなる!」とそのブランドが好きな人の中で競争させ、その結果、高い価格を保っているという側面もあるのだ。交渉の場でも、相手をうまい具合に競争させたりと、考え方を色々活用することができるわけだ。